たびのあとさき

ソウル在住もうすぐ19年目突入

産経・名誉毀損記事の悪意を問う(3)【産経新聞 前ソウル支局長、起訴問題】

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2からの続きです)


世間の人々は事実かどうかは関係なく、こうした状況を大統領と結びつけて考えるようになった。いつもなら支持層が激怒するはずだ。支持者以外の人々も「言及する価値すらない」と黙殺したに違いない。しかし今の状況は、そんな常識や理性的判断が崩れてしまっているようだ。


国政運営で高い支持率を維持していたなら、噂の生じる余地もなかっただろう。大統領個人に対する信頼が崩れたから、ありとあらゆる噂がはびこっているのだ。まるで体の免疫力が低下すると、隠れていた病原菌が浸透してくるように。


これは大統領にとって、とても深刻に受け止めるべき事態だ。なぜ、どうして免疫力が落ちてしまったのか。現政権ほど、国政に多くのモットーを掲げた政権はなかった。「国民の幸福」「国民の大統領」「『非・正常』の正常化」「規制撤廃」「統一で大当たり」「国家革新」…しかし、今や誰もこれらの一つとして任期中にまともに実現できるとは思っていない。ほとんどが、口だけで終わりになってしまうかもしれない。


誰を起用するかを巡って、時間と体力を全て使い果たしてしまったからだ。それでいて、歴代でも類がないほど、(人事に)物議を醸し、不信を招いた。大統領は「時代の要求に沿った人物を見つけるのは、決して簡単なことではなかった」と話したが、世間では「いったいあんな候補者を誰が推薦したのか」と言い、厳しい視線を向けた。これらの蓄積が、大統領の免疫力を徐々に低下させてきたのだ。


国家革新を実現する「第2期内閣の出陣」と謳ったものの、街を行く誰に尋ねても、それを信じる人はいないだろう。内閣の面々を見ても、韓国のこれからを期待できるという気がしない。国家の革新を実現したいなら、大統領本人が自らの側近の革新から手を付けるべきだ。


大統領は相変わらず、旧世代の象徴のような金淇春秘書室長を虎の子のように大事にし、仕えさせている。彼の忠誠心と秘書室の安定を最優先しているからだ。しかし金室長が居座っている以上、大統領の意志を信じる人はいないだろう。


また人事のたびに「大統領府のフィクサー3人衆」の動向が世間の話題に上っている時も、大統領府の内部ではいつもと変わらない静けさが維持されている。大統領が彼らを呼び出し「誤解を受けるような動きや、越権行為は一切許さない」と注意したという話も聞かない。仮に彼らが身に覚えがないと言おうとも、世論に対するメッセージとして必要な姿勢だった。


梅雨の時のカビのように広がる噂を聞きたくないからと、大統領は耳を塞いでばかりいてはならない。カビは太陽の下では乾いて死滅するものだ。

 (以上、下線は訳者による)

 

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さてどうでしょうか。

朝鮮日報のコラムにおいて、この噂は、

良識ある人々たちは、話題にすること自体が自らの品を下げると判断した。誰かが口にしようとするものなら『そんな聞くまでもない話はやめろ』と制止したもの」

であり、さらには

いつもなら支持層が激怒するはずだ。支持者以外の人々も『言及する価値すらない』と黙殺したに違いない。しかし今の状況は、そんな常識や理性的判断が崩れてしまっているようだ。」

とある通り、噂の中身については全くその信憑性を評価する必要を認めていないというスタンスです。

それは、

体の免疫力が低下したときに、顔を出す隠れていた病原菌」「太陽の下であれば死滅するはずのカビ」
との比喩にも表れています。

 

もともと、朝鮮日報はバリバリの保守紙です。ハンギョレ新聞や京郷新聞のような反政権ならともかく、朝鮮日報のような保守紙が、確認の取れない不名誉な噂まで援用し(もし本当であるとしたら)大統領の致命傷になるような疑惑を突いてまで批判をする理由はこれっぽっちもありません。(そんなことは、新聞社のソウル支局長なら百も承知でしょう。ご本人は「ウソだとは思わなかった」とおっしゃってるようですが…。)

 

だからでしょう。この記事には、「疑惑が出ているから、どこにいたかはっきりさせろ」「本当に誰かと会っていたのか」と問題提起する部分は全くありません

 

ただ単に、「政権運営がきちんとしていない、もっと言えば取り巻きに問題があるから隙が生まれる、人事をもっとちゃんとやれ」と言うために、わざわざ意地悪く、こんな突拍子もない噂まで出ている、というエピソードを持ち出しているのです。ウソであるのは明白と考えているからこそ、気安く題材に織り込んだのでしょう。コラムの重点がどこにあるかは実に明白で、後半には具体的に、政権運営のどこが問題なのか、どう改善すべきなのか、記者の見立てで詳しく指摘されています。

 

そこへ行くと、産経の記事はほとんどが朝鮮日報からの切り貼りですが、『朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?』とし、まるで「誰かと会っていた」ことを既成事実化するかのような見出し、さらには「具体的には何のことだか全く分からないのだが、それでも、韓国の権力中枢とその周辺で、なにやら不穏な動きがあることが伝わってくる書きぶりだ。」との(取材によらない)独自の解釈で、噂自体を拡大させるような記述を加えています

 

噂の内容を断定していない朝鮮日報の元ネタに対し、「男女関係」だと明記し、また「ウワサの真偽の追及は現在途上」とまで記しています。このように産経新聞の記事では、一応「朴政権のレームダック(死に体)化は、着実に進んでいるようだ。」を結論としてはいますが、「見出し」及び記事の流れとして、噂を扱うこと自体を目的としていることは明らかでしょう。

つまり、取材の跡がみられないほど大部分を朝鮮日報のコラムを元ネタとする記事ながら、朝鮮日報のコラムと違って、噂の内容をセンセーショナルに取り上げること自体に目的があると見られても仕方がなく、名誉毀損を越えた記事の公益性を主張するのは非常に苦しい性格の記事といえるでしょう。(だからといって起訴が適当、と言いたいわけではもちろんありません。)

解釈はもちろん色々あると思いますが、私は「産経だけが問題視され、朝鮮日報が免罪されたことは不公平」の論は、必ずしも成立しないと考えます。また、韓国検察および政府のこれまでの不適切な対処が非難されるべきなのとは別に、産経新聞の報道姿勢も批判されてしかるべきだと思います。

今後もこの調子で報道を続けるのであれば、もはや産経新聞は、先の記事中にあった「一般のメディア」としての新聞の看板を下ろすべきではないでしょうか。

(以上終わり)